今回もベンチャーナウに連載していた第5弾の文章を紹介します。最終回です。
今回は資金調達。スタートアップ創業者はどうしても資金調達したくなりがちですが、今一度その目的や資金調達をすることによるメリット・デメリットを整理しています。
2013年時点での私の考え方のとして読んでいただければ。
そのお金ほんとうに必要ですか? – シード期の資金調達
あるスターアップの創業者にアドバイスを求められて、オフィスに遊びに行きました。話していたところ、創業者の一人が「資金調達のための資料作りの時間がもったいない。プロダクトを作ることに時間を割きたいのに。」と言いました。この発言を聞いて、私は資金調達というものが自分たちにとってどんなことを意味しているのか、また、自分たちのサービスと資金調達の関連性について改めて再認識する必要があるのではないかと思いました。
資金調達はスタートアップにとって大きな環境変化をもたらすので、今必要だと思っていないのであれば資金調達はすべきではありません。逆に本当に必要だと思ったならば外部からの客観評価を得るためにアクションを起こすことは当然です。資金調達と開発に関わる工数を天秤にかける発想ではなく、サービスの成長にとって今何にリソースを注力するかにもとづいて動いていくスタンスが大事だと思います。
いくつかのスタートアップの創業者と話す時、私が資金調達の経験があると聞くと、資金調達先を紹介してほしいとリクエストされます。確かにスタートアップである以上、リスクマネーをいれてサービスを成長させるという方法を取っていくのですが、本当に今そのスタートアップにとって必要なのか。いつもリクエストされるたびに違和感を覚えていました。
今回は資金調達について考えてみたいと思います。ただ、資金調達はとても奥深く、どれが正解と言い切れないものなので、シード期における創業者の視点で現実的に考えていってみたいと思います。
資金調達 = スピードを買う
スタートアップにとって、会社を立ち上げてすぐの状態で黒字化までの売上を上げて、財務的に安定した状態になっていることはほとんどないでしょう。立ち上げたばかりのシード期は資金もなく、出て行く一方なので何かとひもじい気持ちになります。そういった心理状態からも創業者は資金を欲しがります。
しかし、資金があればあるだけ良いことなのかというと、そうではありません。ここではバリュエーションや株式の持分については説明しませんが、簡単にいえば資金が大きいということは、それだけエグジット時のゴール設定が高くなることになります。資金調達の関係性について整理しました。
ゴール設定が高いということは、達成確率がそれだけ小さくなります。つまり、リスクが高いことを約束するわけです。その代わり、資金があるということは必要な人材を雇うことや大きなプロモーションプランを実行することも出来るようになります。つまり、スピードをあげることができます。やみくもにお金を欲しがってはいけない理由はこの相関関係があるからなので、資金調達額、抱えるリスク、求めるスピードの相関関係を理解した上で、今自分たちはどこでバランスをとるのか、創業者は常に理解しておくことが大事でしょう。
創業者にとってのシードアクセラレータ
2011年後半ごろからシードアクセラレータ、シード系VC、インキュベートプログラムとかシード期のスタートアップに投資し支援する組織とファンドが立ち上がり、経験のないスタートアップ創業者たちの受け皿になっています。このシードアクセラレータがおこなっている投資は創業者にとってどういう存在に捉えればいいのか。考えてみたいと思います。以下に2つのシードアクセラレータが行なっている投資条件をまとめました。
組織名 | 投資金額 | 投資形態 |
---|---|---|
サムライインキュベート | 450万円 | 普通株15% |
MOVIDA JAPAN | 500万円 | Convertible Note |
(条件: 20%ディスカウント or 10%シェアのValuation Cap)
出典
また、MODIVA JAPAN でSeed Acceleration Programの統括をされている伊藤さんのブログ( http://itokenv.com/archives/637 )より、投資金額500万円の想定を紹介しています。
”この500万円をアイデア実現からローンチして一定のユーザー獲得出来るところまでの資金として考えていいて、500万円あれば、若者3人が毎月20万円 ずつの生活費としてやっても半年で360万円で、他の経費を考えても6カ月分にはなるだろうし、この期間で走りぬけて欲しいと。”
この文章から投資対象としては、生活費の低いおそらく結婚していない若者を想定しているようですが、1カ月20万円で暮らせる人はビジネスしている方の中ではそう多くないはずです。私もそうですが子どももいて奥さんが働いてくれていてもとても20万円で1カ月は暮らなくて、この倍以上の金額は必要です。また、創業者の数が多くなれば生き残れる期間も短くなります。3人が4人になれば半年で生活費合計は480万円になってしまうので、生きれる期間は4.5カ月ほどになるでしょうか。
それにある程度のスキルセットを持っていれば、自分で食べていける分くらいは稼ぐことは可能でしょう。少なくとも1カ月20万円以上は稼ぐことは可能です。単純にこの金額を自分の生活をするためのお金と捉えてその大きさだけを考えれば、少なすぎると言えます。実際、日本ではアルバイトや受託をして生活費を自分で何とかしている創業者はいますし、サービスを提供しつつ受託もして自分たちの給料を何とかしているスタートアップもあります。
また、投資を受けることは、ある意味創業者だけの会社ではなくなりますので、あらゆるリスクを一気に抱えることになります。わざわざリスクを背負って低い金額を受ける必要はどこにあるのか。投資されたお金は創業者の生活費としては成り立たないとすれば、投資されたお金をどう位置づけるか。
サービスを成長させることをコミットしあう
私は、投資されるお金は「サービスをより大きく成長させるため」のもであり、投資契約を結ぶことは、「創業者と投資家が、お互いサービスの成長のためにコミットし合う」ことだと思っています。提供されているのはお金ではあるのですが、シード期においていは金額の大きさというより、サービスを成長させるために何をしてくれるのかが重要になります。
創業者は投資されたから生活が楽になると思っているならば、なにか大きな勘違いをしていて、サービスを成長させるためにどう使うかを現実的に考えるべきでしょう。そもそも本当に生活のためだけに生きているならば、上場している大企業の社員になるべきで、スタートアップというとてもリスクの高い世界に立ち入ってはいけないでしょう。投資してくれる人は、サービスを成長させるために何ができるのか。どんなリソースを持っているのか。を見極めることが重要だと思っています。
サムライインキュベート、MODIVA JAPAN のようなシードアクセラレータの場合、学生起業家やはじめて起業するような、ビジネス経験がなく、人脈や外部に活用できるリソースをほとんど持っていないチームが起業のいろはを学ぶことも含め、自分たちの未経験部分も補ってくれるから金額的に低くても支援プログラムが合理性を持って成り立っている。ということになります。
実際、ある日本のスタートアップ創業者に聞いた話ですが、シード系VCから資金調達をしてある施策の支援をそのVCにお願いしたところ、それはやってないからそっちでやってと言われて、投資契約後に期待している内容とのギャップがあって困った。という話でした。こういった話は残念ながら結構耳にします。投資した側は「それはそっちでやってよ(僕らはそんなことできないし、お金出しているんだし)」。創業者側は「それはそっちでやって欲しいよ(そのために投資受け入れたんだし)」というように、創業者にとって投資してくれた側への期待がかなわないとかなり不幸です。お互いできないことがサービス成長にとって重要だとすると、すでに期待したほど成長できないだろうと予測できてしまいます。
投資交渉する際に、お互いサービス成長のために具体的に何ができるのかを出しておかないと、事後になってからでは取り返しの付かないことになります。人間はインセンティブを求める生き物ですので、お金がちらつくとそれが欲しくなって、自分をよく見せようとしてしまう傾向があります。しかし、「お金をもらう」のではなく「投資される」ことを忘れてはいけません。自分の欲求をぐっとこらえて、自分たちのできること、できないことを提示して、相手に期待していることを勇気を持って伝えて見極めることが重要だと思います。
目的はサービスを大きく成長させるためですので、そこを見失うことなく、自分たちのチームも相手も客観視して、補完関係になることがわかれば十分投資を受ける価値が高く、確信を持って突き進むことができるでしょう。結果的にサービス成長を高めることにつながっていきます。投資家が偉いわけでも、創業者が偉いわけでもなく「サービスを大きく成長させるため」にお互い対等な立場であるべき、と整理すれば投資側との関係性についてもすっきりとらえられるのではないでしょうか。
必要コストがどんどん小さくなる悩ましい状況
ここまでスタートアップにとって、資金調達によってサービスを成長させるための支援を得ることを説明しました。確かに資金調達は大事な要素ではあるのですが、最近の状況を考えるに、実は本当に初期のシード段階での資金調達はそもそも必要か?という疑問を持っています。ここでちょっと皆さんと考えるために問題提起してみたいと思います。
最近の状況は以下のようになっています。
モバイルファースト
スマートフォンの数がPCを超えたことによってモバイルアプリが主戦場になった。モバイルアプリはユースケースに特化しやすく、機能が少なくてもユーザに刺さるサービスが提供できる。実装する機能が少なければ開発工数は少なくなる。また、モバイルアプリに特化したバックエンドクラウドサービス MBaaS (Mobile Backend as a Servie)が登場し、サーバ側の開発・メンテナンスコストがかからず、ますます工数を減らすことができる
リーンスタートアップ
日本でもリーンスタートアップの考え方が常識化している。身軽な段階で素早くMVP(Minimum Viable Product )を作り、仮説と検証を繰り返して成長できるビジネを見つけることが推奨される。最初から確実に成長できるビジネスを見つけることはできないという事実の裏返し。
このことより、スマートフォンアプリを小さく作り、市場に出してフィードバックを得ながら改善していく。というアプローチが現状に合っていそうです。すると、小さく試す段階でかかるコストは非常に小さく、資金調達すら必要ないくらい、会社に務めつつ帰宅した後と休日で作れるでしょう。もし、アプリの成長が高い、もしくは課金率が高いなど、スケールすれば大きな事業になりそうな兆候が見えれば、初めてそこで会社を作り、チームを作り、資金調達すれば良いと思います。兆候が見えているので投資する側へアピールになり、資金調達もしやすいでしょう。
これまでの順番が、
- チームを作り
- 資金調達をして
- サービスを作る
だとすると、これからは、
- 一人でサービスを作り
- (成長できるビジネスの検証ができたら)チームを作り
- 資金調達をする
という順番が成り立つのではと思っています。実は現状、私は一人でアプリを作り、プロモーションをほとんどせずにユーザの動向や要望を聞きながら改善を繰り返し中です。イケる兆候が見えたらチーム作りや資金調達に進もうと思っています。状況に対して身を持って実験中というところです。
このアプローチはアプリが実際作れる人が対象だと成り立ち、作れない人はアイデア段階でエンジニアをチームに入れる必要があるので、その人の給料を払うためにサービスを作る前に資金調達は必要かもしれません。ただ、共同創業者として入れば同じように無給状態で検証を進めることができます。また、シードアクセラレータが仮説の立て方や検証方法など細かいレベルでの指導できるノウハウがあるとすれば、そこを頼るのも良いと思っていますが、正直そこまでのノウハウがあるかどうか確証は得られていません。
ということで、日本はアベノミクスの影響もあってシード期のファンドも盛り上がって来ると思いますが、ある程度の立ち上げは個人のレベルでやれてしまうので、資金調達はより遅めで行うようになっていくのではないか。という悩ましい状況なのかな。と思ったりしています。みなさんはこのような状況を踏まえ、シード期のスタートアップの立ち上げ方をどのように考えていますか。