これは革新だ!サッカー中継の新しい試みを NHK がしてくれた。
「必見! データがサッカー中継を変える」というタイトルで、8/16 Jリーグ 2ndステージ 第7節 第鹿島アントラーズ x ベガルタ仙台 戦をリアルタイムに集計されるトラッキングデータを分析しながら中継するというもの。
![]https://pbs.twimg.com/media/CMhmwfIUwAAWWml.jpg:large)
出典 : https://twitter.com/naoky_sonoda/status/632868740204396544/photo/1
ただ、ひっそり試したい NHK の思惑から、今までの中継スタイルを取るチャンネルと NHK BS101ch でいつもの様に放送、データ分析の中継は BS102ch で行われた。
結構、中継を観た人の反応は新しい試みにポジティブだった ようだ。”ウイイレみたい” というのはまさにその通り。
基本的に既存のコピペの繰り返しではなく、既存があるがゆえの異なるものとして新しいことへの試み・チャレンジはどの分野でのどんな事柄でも興味深いし、その様子だけでも支持したいと思える。
すでに肯定的なスタンスもありつつ、サッカー中継をよく観るファンの立場としてワクワクしながらこの中継を観た。
一言で言えば斬新。はじめての取り組みなので改善した方がもっと良くなると思える点もありつつ、既存の中継では味わえない新しい価値を確かに提示できたと思う。
サッカーの勝敗を分けるのための要因にとても興味がある自分には、いつも戦術や選手の動きはどうあるべきか模索しながら中継を観ている。この中継が提示した俯瞰した動きやチームスタイルの違いなどが明確に理解できてとても面白かった。
中継方法
主チャンネル BS101ch では通常通りの中継方法で、解説・早野宏史氏、実況・杉浦アナが担当。今回の試みは副チャンネル BS102ch にて、 データアナリスト(解説者ではなく) 山本昌邦氏、ナビゲーター(実況ではなく) 内山アナが担当された。
役割の名前も通常と変えて担当者は豪華な布陣。解説者として最も聞いてて楽しいと思える唯一存在、山本昌邦氏が担当。
![]https://pbs.twimg.com/media/CMhmwfIUwAAWWml.jpg:large)
出典 : https://twitter.com/naoky_sonoda/status/632868740204396544/photo/1
画面は上部に大きくピッチを俯瞰した映像。ボールの行方によって多少左右に振れることはあるが、基本俯瞰したままで選手一人一人の識別は難しい。
下部中央はトラッキングデータの表示。表示されたものは、
- 選手ごと
- 走行距離
- スプリント(24km/h以上で走った)回数
- プレーエリア
- スプリント速度ランキング
- チームごと
- ボール保持率(時間帯ごと)
- アタッキングサード(ピッチの縦を3分の1ずつに区切った最もゴールに近いエリア)への侵入回数
この他に過去の試合におけるチームごとの得点時間帯の集計なども表示されていた。
下部の左右は各チームから1名ずつ選手をピックアップして追い続ける映像。ボール保持者ではない時も映り続ける。時々ピックアップする選手が変わる。
楽しめた点
俯瞰した視点
陣形
ボールのない所でサイドの選手はどれくらい絞っているのか分かった。
FWの守備の位置取りやアクションもよく見えた。FW ダヴィの守備の意識が低いこともよくわかった。交代させられた理由もそれが含まれていたのかもしれない。
味方の最終ラインから相手の最終ラインまでのコンパクトさがわかった。 守備ではコンパクトしたい。守備の時にFWから最終ラインまで間延びすると攻撃にチャンスが生まれやすい。
この試合前半、仙台は鹿島ボランチの小笠原、柴崎に徹底マークをしたことで、鹿島の攻撃の良さを封じていた。献身的な守備が功を奏して2点を奪った。後半は明らかに動けなくなって陣形が間延びし守備が遅れていることがよくわかった。これで鹿島がボールをつなぎやすくなり、2点を奪って逆転した。
後方からのスプリント
ボールを持っていない選手のサポートの動きやペナルティエリアにスプリントして侵入して行き動きで仕掛けている様子がよくわかった。 これをよくやっていたのは鹿島の柴崎選手。彼はボランチのポジションでボールをさばきながら、前線にボールが渡ると上がっていく動きを何度かしていた。攻撃のタクトを振りつつ自らも得点を狙う、攻撃的な選手であることがよくわかった。
鹿島の1点目は左サイドバックの山本選手がペナルティエリア内まで上がってのヘディングだったが、この得点が生まれるまでの一連の流れが俯瞰していたので良くわかった。
逆サイド深い位置にボールが入った時にはまだ後方にいて、少しキープした時に一気に動き始め、クロスが上がった時にタイミングよく相手を外してヘディングして決めた。通常の中継では映っていない範囲での動きだった。
トラッキングデータ以外データの紹介
走行距離、スプリント回数、ボール保持率だけではサッカーの勝敗を決定づけるデータにはなり得ない。
例えば、走行距離・スプリント回数・ボール保持率が高ければ勝てるということは決して言えない。チームスタイルの違いとして捉えることができるまで。
実はトラッキングデータ以外のデータがこの試合を捉えるのにとても役に立った。
山本昌邦氏が紹介していたデータは、 ペナルティエリアからのクロスとワンタッチでのシュート数が前回のブラジルワールドカップでは多くを占めた と言うもの。
実際、鹿島の追加点ゴールはその通り、右サイドペナルティエリア内からのクロスにワンタッチでのシュートで決めた。
山本昌邦氏が示すデータどおりの結果が決勝点となったのは、データを知ってこその楽しみ方につながり、1つ深い観戦ができた。
今後の改善点
新しく楽しめた部分もありつつ、やはり改善点もあった。
俯瞰の映像をもっと大きく
俯瞰した映像は目を凝らさないとボールも見えにくい。選手も識別できない。 BS102ch は SD 画質だから荒く環境としてもマッチしていなかった。ハイビジョン画質じゃないと厳しい。
基本的にピッチのゴールラインの幅めいいっぱいに俯瞰していたが、そこまで引き伸ばす必要は実際なかった。 GK以外の選手たちはピッチ縦の1/3くらいの幅に収まっていた。チームスタイルの違いはあるだろうが、おそらくピッチの半分の範囲を映せていれば良いと思う。
メリットとしては、ボールの識別もしやすく、選手の識別もできるようになればデメリットも減らせる。
ピックアップ選手のゲーム関連度合いを上げる
プレイに関連しない映像を撮り続けるのもなかなかつらいものがある。
ずっと追っかけていたのにボールに触らない。走らない。その間にゴールが決まる。というケースがあった。 最初は柴崎を映していたがチャンスを映すことは結果的にできていなかった。
チャンスを作りそうな選手を予測しても今回のように外れてしまう可能性があるので、やはりボールに関与している選手を頻繁に切り替えるかなと思う。
最善の策かはちょっと分からないが、ボール保持者を追う。ディフェンスしに行こうとする選手を追う。の両方ができれば良いのかもしれない。
是非今後も継続して欲しい
総じてすごく良かった。まとめると。
- 俯瞰した視点で選手・チームとしての動きがよく見えた
- チーム戦術とデータをリンクさせた解説
- 試合の状況を的確にとらえた解説と得点を予感させるデータの提示
以前から山本昌邦氏は担当する解説で、ペナルティエリア内からのクロスとワンタッチシュートの得点パターンを説明しており、データ・戦術・技術・メンタリティを総合的に捉えることのできる日本で恐らく唯一の解説者だと思っている。
今回はトラッキングデータ以外の部分の解説もあって楽しめた。 ワンタッチシュート率・守備の陣形・両チームのスタイル・選手のスタミナ状況等が情報としてあったから。
このような厚みのある解説ができるのは山本昌邦氏以外はできないだろう。 データ分析中継は引き続き山本昌邦氏のデータアナリストとしての登場を期待したい。
NHK はネガティブな意見にめげずポジティブな意見を力に、この中継方法を是非繰り返してほしいと思う。状況的に難しいかもしれないがハイビジョン画質での実現は是非期待したい。
本当に新しく楽めた中継だった。
参考URL
- http://blog.domesoccer.jp/archives/60025238.html
- https://twitter.com/naoky_sonoda/status/632868740204396544
- http://matome.naver.jp/odai/2143973196062583401
- http://blog.livedoor.jp/vitaminw/archives/53131109.html
- http://www1.nhk.or.jp/sports2/result/result_jlg.html