本当に面白い小説だった。
映画化されるだろうなと思っていたらすでに2013年に上映されていた。
辞書や百科事典と聞くと無骨で完璧な印象持つが、それを作り出す人間の作業は揺らぎながら検討を重ねて生み出している。膨大な作業の賜物であることがわかった。
一つの言葉でも複数の意味合いを持つので、単純ではない。日本語の豊かさ、言葉の深さが辞書作りの作業ににじみ出る。
全体的に硬派な文章ながらユーモラスなシーンがあったりして、このギャップも1つの魅力になる。 それぞれの登場人物の内面の描写も様々で豊かだ。読者が何かしら一致する点を見いだして、知らないうちに物語にのめり込んで行く。
筆者の三浦しをんさんは辞書編集者にインタビューをしてこの辞書を作る物語を書き上げた。まるで実際に編集者で働いていたのではないかと思えるくらい、詳しい作業内容や働いているものの心理まで描写していたので、驚いた。小説家とはよきインタビューアーなのかもしれない。
主人公、馬締の人柄も興味深い。真っ直ぐに辞書作りに励む姿が人を動かし、いつの間にか熱中させる。馬締本人はその影響を自覚していない。小手先のテクニックやごまかしではなく、ただただまっすぐに向かうことこそが真であることを示しているようにも思えた。
小説を読んで楽しいという感覚はなかなかなかったが、読み終えるのが惜しいくらい読んでいる時間が楽しい本だった。