RUNNING LEAN – アッシュ・マウリャ



Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

この本はリーンスタートアップの実践書。オライリーが出しているところが興味深い。一応オライリーのリーンシリーズの第1弾ということで、今後リーンスタートアップ関連の書物がオライリーから出てくると思われる。

この本の存在価値は時間的経緯があるので、この本について述べる前に、それまで出版されてきたリーンスタートアップ系の本についておさえておく。
主要なリーンスタートアップ系の本は3冊あると思う。アントレプレナーの教科書、リーン・スタートアップ、スタートアップマニュアル。
それぞれの特徴を挙げておく。


アントレプレナーの教科書

  • なぜスタートアップは失敗するのか、冒頭に出てくる数々のあるある的な失敗例はグサグサと突き刺さるものがある。その反省を元に成功するスタートアップになるためにはどうすればいいか。今まで持っている思い込みも含めた常識をひっくり返すための考え方を示している。
  • 日本語訳が執筆されたのが2009年5月で、下記の リーン・スタートアップ が書かれる前なので、若干時代背景が古くサービスはエンタープライズパーケージソフトウエアの販売を前提としているような記述もあり、想定スピードも遅い。例えば、「ビジョナリー顧客には、次の18ヶ月間に自社が何を提供する予定であるかを説明する必要がある。」との記述があり、ウェブやアプリサービスを前提とした場合は全く当てはまらないだろう。
  • ただ、リーンスタートアップで出てくる顧客発見、顧客実証などの単語の定義はこの本から生まれており、考え方の背景や方向性を大まかに知るには読んだほうが良いかも。


リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす

  • 「リーンスタートアップ」という単語を生み出した本。基本的にはアントレプレナーの教科書の方向性を元に、ウェブサービスにも適用出来るよう、より現代的にマッチさせたという感じ。
  • ただ、概念の定義や考え方を論理的に示すことが中心で、実践面では足りない。読み終えた時にじゃあ何から始めようかと考得こんでしまうかもしれない。この点は、アントレプレナーの教科書と同様、実践面は自分で考えて試しながら進めるしかない。


スタートアップ・マニュアル ベンチャー創業から大企業の新事業立ち上げまで

  • アントレプレナーの教科書の基本はそのままに、リーンス・タートアップやビジネスモデルキャンバスの現代的な要素を加えて説明している。よくある失敗例は無くして、よりフロー化されているのでマニュアルと命名しているのだろう。
  • ただ、基本はアントレプレナーの教科書と同じ論理展開や情報粒度なので、実践面の情報はほとんどない。ビジネスモデルキャンバスも紹介程度で、9つの要素に整理したとしてその後どんな視点を持って更新すべきなのかそれは書いていない。スティーブン・ブランクの決まり文句「オフィスを飛び出せ!」の重要性はわかるが、外で何をすればいいかは書かれていない。実践面の情報が少なく論理展開の情報が過多なので、本当にスタートアップしたい人にとってはじれったい印象になるかもしれない。
  • あと、提供サービスごとにリアルとウェブを分けてフロー化して、それぞれ説明を進めているのだが別の本に分けてリアル編、ウェブ編として出版してくれたほうがよいと思った。リアルのフローでは顧客インタビューがあり、ウェブでは入っていないのは本当にそれで良いのか?など別のフローに書かれていることがやってみたくなったりと誘惑されてしまうことがあった。

というように、リーンスタートアップ系主要な3冊は実践面の情報が少なく、単に概念を把握するだけなら十分だが、読み終えてから何をすればいいか頭に浮かぶ本ではない部分が残念だ。
根本的だけど単純な質問「インタビューはどのように行えばいいのか」「このチャレンジを行うには何人必要なのか」「資金調達のタイミングはいつが良いのか」については答えることができていない。

と、ここまで前置きが長くなったが、そこでこの本 RUNNING LEAN である。
この本は副題に「実践リーンスタートアップ」とあるように、実践的な情報で埋め尽くされている。実際サンプルサービスを試してフローを進める過程が詳細に書かれているし、インタビューの依頼メール本文からシナリオも書かれている。それ以外にも根本的だけど単純な問題、資金調達のタイミング、チャレンジにかける時間的割合、スケジュール管理方法、開発フローなど実践すれば必ずぶつかるであろう点についても述べられているのが嬉しい。

ただ、これはあくまで1つの実践方法を示したものだと捉えて置くことも必要。自分のサービスのアイデアは違うだろうし、インタビューの内容も変わるはず。1つの参考として十分に生かしつつ自分の状況に当てはめて考え出すと良い。考え出すだけの十分な情報を提供してくれているはず。

この本が自分に合っていると思うのが、本当に最初の段階では会社も作らず、資金も入れず、人も雇わず、基本一人で進めるべきだという考え方を示している点。今までのどの本でも主張されていない部分で、そこまでスリムにすることが非常に大事だと思ったりする。
実際に今は スマートWordPress をこの本を大いに参考にしながら進めている。
やってみて本に書かれていない新し課題に出会ったり、より詳細な点を見つけたりしているが、それもまた新しさの裏返しだと思って楽しんで進めている。それについてはまた折を見てブログにまとめてみたい。

リーンスタートアップを概念的ではなく、本当にやってみたいんだ or やり始めたけど何をしていいかよくわからない人にとってはベストな本だと思う。

スタートアップ・マニュアルを読んでモヤモヤしている人には絶対オススメです。


Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

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