Convertible Notesとは何か?
一言で言うと「会社にローンとしてお金を貸し付け、将来、優先株による資金調達(通常Series A)が起こった際にローンを優先株に転換(convert)する」というものです。
なぜ、こんな面倒なことをするのでしょうか? いくつか理由があります。第一には、「立ち上げ直後の会社の評価額を決めるのはほぼ不可能」という点があります。スタートアップの評価額というのはどこまでいっても決めるのが難しいのですが、特に立ち上げ直後は評価額を決めるのがほぼ不可能です。従って「とりあえずお金を貸すから、将来、評価額が決まった時に株にしてね」という形が投資家/スタートアップの双方にとって合理的だということです。
第二に、優先株による資金調達(Series A以降)に比べて、Convertible Notesの方が、契約そのものにかかる時間が圧倒的に短いという事実もあります。優先株による資金調達(Series A以降)はきちんとした査定(デューデリジェンス)が必要なので、非常に時間もお金もかかります。時間だけならまだしも、査定に対応するための弁護士費用をスタートアップが負担するのは非常に痛手です(アメリカは契約社会なので、創業直後とは言え、専門的な弁護士なしに契約書を処理するのはほぼ不可能です)。他方、Convertible Notesで投資をする人たちは、ほとんどがエンジェル投資家(個人)かせいぜい小さいSeed Fundなので、詳細な査定(デューデリジェンス)はほぼしないか、するとしても非常に簡易的な査定です。私の経験上、「私の弁護士はX事務所のYです」というと、「あぁ、あの事務所(弁護士)なら大丈夫だよね」という具合に、全く査定されないこともありました。
第三に、これは第二の点と似ていますが、Convertible Notesの場合、個別の投資家が契約に同意する度に投資額が入金されます。他方、一般的に優先株による資金調達(Series A以降)は、そのラウンドに参加するすべての投資家が合意するまで、当然ながら誰からも入金されません。創業直後はお金が無いので、スタートアップ側からすれば、「他の人がまだ契約に同意していないから入金されない」という状況よりは、個別の投資家が契約に同意する毎に入金される方がいいに決まっています。
Convertible Notesの詳細
以下が私の知る一般的な方法です。繰り返しになりますが、例外はいくらでもありますので、実際に実行される場合は、自己責任で弁護士を雇ってください。
Convertible Notesとは、「会社にローンとしてお金を貸し付け、将来、優先株による資金調達(通常Series A)が起こった際にローンを優先株に転換(convert)する」と上述しましたが、どのようなルールで転換するのでしょうか。
通常、パラメーターは2つです。
1つ目は、転換時の「増資前評価額の上限」(pre-money valuation cap)です。仮に「増資前評価額の上限」が500万ドルのConvertible Notesで投資したエンジェル投資家がいるとします。その後しばらくして、増資前評価額が1,000万ドルでSeries Aを行うとします。この時に、エンジェル投資家が投資家が投資したお金が、優先株に転換されますが、エンジェル投資家からすると当然、「まだ会社が小さい(リスクが大きい)時期に投資したのだから、Series Aの投資家よりも有利な条件で転換してほしい」ということになります。
この場合、Series Aに参加するVCは1,000万ドルの評価額で投資しますが、このエンジェル投資家には、上限値の500万ドルの増資前評価額として優先株が発行されます(この場合、先に投資をしたエンジェル投資家は、Series Aで投資をするVCに比べて、同じ優先株を約半分の値段で手に入れられるということです)。つまり、「増資前評価額の上限」は、Convertible Notesの投資の後に事業が非常に上手くいき、Series A時の評価額が非常に高くなった場合に、先に投資をしてくれた投資家を守るためのものです。
二つ目は、「増資前評価額の割引率」(discount)です。同じく「増資前評価額の上限」が500万ドル、「増資前評価額の割引率」が20パーセントのConvertible Notesで投資したエンジェル投資家がいるとします。その後しばらくして、増資前評価額が300万ドルでSeries Aを行うとします。この時も、エンジェル投資家が投資家が投資したお金が、優先株に転換されますが、エンジェル投資家からすると同じく、「まだ会社が小さい(リスクが大きい)時期に投資したのだから、Series Aの投資家よりも有利な条件で転換してほしい」ということになります。
この場合、実際の増資前評価額(300万ドル)が「増資前評価額の上限(500万ドル)」よりも(ずっと)小さいことに注目してください。Series Aに参加するVCは300万ドルの評価額で投資しますが、このエンジェル投資家には、300何ドルの20パーセント引き、つまり240万ドルの増資前評価額として優先株が発行されます(この場合も、先に投資をしたエンジェル投資家は、Series Aで投資をするVCに比べて有利な条件で優先株が発行されていることになります)。つまり、「増資前評価額の割引率」(discount)は、Convertible Notesの投資の後に事業があまり上手くいかず、Series A時の評価額があまり高くならなかった場合に、先に投資をしてくれた投資家を守るためのものです。
繰り返しになりますが、これら2つのパラメーターは、リスクが非常に大きい初期に投資をしてくれたエンジェル投資家を守るためにあります。「増資前評価額の上限」は、事業が非常に上手くいって、Series Aの評価額が大きくなった場合に、エンジェル投資家に有利に作用します。逆に、「増資前評価額の割引率」は、事業がそこそこだった場合、あるいは上手くいかない場合のためのものです。
Convertible Notesに精通している投資家と話をして、投資したいということになると「capはいくら? discountはいくつ?」と聞かれるのが通常です。