JTPAシリコンバレーカンファレンス2009に参加して帰ってきて何を思ったかというと、想像していた以上にITにおける日本とシリコンバレーの環境が大きく違っていて、その差は相当ついてしまっているなということだった。
実のところシリコンバレーの様子はニュースサイトや本などで情報は収集していてなんとなくは分かっていたつもりだったが、実際はまさに「百聞は一見にしかず」で全然分かっていなかった。ということが自覚してしまって、なおさら悔しいというかなんともいえない虚しさのような感覚がずっとついていた。
虚しく思っていても前に進まないので、冷静に異なる点をまとめて今後自分自身のスタンスや少しでもシリコンバレーを意識したい日本にいる方々に参考になればと思って書くことにする。
タイトルに IT と書いているが日本の Enterprise SI の分野はシリコンバレーではないので自社でサービスを作って BtoC で勝負しているベンチャーの世界という意味で使っている。
ベンチャーという言葉の定義の違い
日本でベンチャーといえば少人数で比較的若くって技術力がある程度あって、オリジナルサービスや製品を元に成長を目指そうというなんとなくなイメージに合致している会社を指しそうだが、シリコンバレーでいうベンチャーは全然違う。
シリコンバレーでいうベンチャーは単純明快に exit を目指している会社のこと。に他ならない。
exit(エグジット)とは上場(IPO)なり買収されることにより会社の資本(株)が現状よりもとても高く評価され買われて資本が爆発的に増えてそれを売り抜けること。それによって創業者は多額の資本を手に入れることができて成功者となれる。このバブルのようなゲームのゴールとして exit は存在する。
もうひとつの条件として exit を目指す = VC から資本を得る こと。初期であっても数億円程度のお金を VC から得て、それを元に自社のスピードを上げてどんどん exit に向けてまい進して行く。
- exit を目指している
- VCから資本を得ている
という条件がそろってベンチャーと呼べる。
逆にこの条件から外れる会社は ライフカンパニー と呼ばれ、自己資金や小額の資本を入れて経営していて、創業者が変らない、売り上げの伸び率の低い会社のことを指す。
そう考えると日本にある非上場でweb系でそれなりに有名な会社はみんなライフカンパニーだということになって、そもそもシリコンバレーのベンチャーとまったく異なる存在になってしまっている。
VC の存在感の大きさ
ベンチャーはまず VC から資本を得ることが条件だったが、シリコンバレーでいうこの VC の存在感は本当に大きい。シリコンバレーがこの不況下でも変化は求められるとしてもまだ exit を目指したベンチャーが消滅せずに RockYou のように意気のいいベンチャーがまい進し続けられるのも、VC ちゃんと資金を提供してくれるからといえる。シリコンバレーのベンチャーが挑戦し続けられる環境を提供している肝になっていると思う。
日本にも VC は存在するがおそらく以下の点で異なっているはず。
-
資金力の違い</p>
- シリコンバレーでは数百億円程度のファンドを持つ VC がごろごろいる。資金力は VC が判断される最初のパラメータで、この金額を明示するのは当たり前。日本で明示しているところはどれくらいあるのだろう
-
人脈力の違い
-
シリコンバレーの VC で最も強い点はそのベンチャーに必要な人を連れて来てくれること</p>
- 創業者の中でセールスの部分がなければ、セールスマネージャで副社長にいた経験と実績がありその人がいればもう数百件くらいの顧客は get できるよ。くらいの実力者をポンとすえてくれる。
- シリコンバレーでは trac record という経営クラスの人たちの今までの職歴、実績がプールされているらしい
- 日本に必要な人をアサインするほどの人脈力のある VC はあるのだろうか。それ以前に真の実力を見極めるすべは持っているのだろうか。
-
シリコンバレーの VC で最も強い点はそのベンチャーに必要な人を連れて来てくれること</p>
-
会社を運営することのノウハウを多く経験していてそれを十分に生かしている
- exit のイメージを常に持ちつつ、短期的な方向付けを欠かさない
- 今どういうことをすべきかという提示を明確にしている
- それはお金、人、サービスの関連性から分析した結果を創業者メンバに指示している
- 助言という甘いレベルではなくやはり資本を提供し、exit することを目標にしている立場からは指示という言い方のほうが合っている
-
VC同士のネットワークが確立されている
- VC 同士のつながりが意図的に作られていて、お互いを助け合うことができている
- お互いが出資しているベンチャーを合併させたり、吸収(買収)させたりすることができる
- この不況下でもこの VC 同士のネットワークを生かして会社を整理できていることで、VC 自体もつぶれるレベルにならないですんでいる
ある意味創業者はアイデアと熱意とこのゲームに耐えうる人柄かどうかがあればあとは VC が用意してくれる。日本だと資金調達から人集め、セールス、資金のやりくりまですべて創業者がやらなくてはならず、本来サービスの成長に必要な開発やマネージメントに割く時間がなくなり疲弊して本来のスキルを発揮できないで終わってしまうケースに陥りやすい。
人の集め方、扱い方
ベンチャーは exit することが目標なので、人の扱い方もいたってシンプル。基本的に会社が望む能力や人柄かどうかかどうか判断のすべて。
会社としての機能は セールス、人事(でもせいぜい二人くらい)、エンジニア くらいしかなくて、日本によくある経営企画とかマーケティングの存在感は薄い。募集する職種は複雑化しない。
採用方法も論理性を主体に見たかったらテストを受けさせパスすればOK。入社後期待したパフォーマンスが出せなかったり、人間性に問題があればすぐ辞めてもらう。このすぐ辞めてもらう部分が日本では難しいと思う。ただ、首を切られたほうとしてもあまり悲壮感はなく、まぁしょうがないと思ってまた職を探すらしい。この部分はよき楽観主義 + シリコンバレーの人が循環する仕組み の中でうまく吸収できていると思う。
日本に残る感覚的な違い
その他こまごました感覚的な違いを並べてみる。
-
大金持ちになる = 成功 というイメージ</p>
- 日本では大金持ちになるとマスコミ含め周りからネガティブなイメージで見られやすい
-
エンジニアがすべてを作ることができるという感覚
- 実際作るのはエンジニアなので、シリコンバレーではエンジニアへの尊敬が強く、エンジニアが働きやすい環境を提供するのが当たり前になっている
-
会社への忠誠心
- ベンチャーとしてその会社のゲームに乗った感覚のほうが近いと思う
- 結局は会社は exit を目指した確率の低いゲームをしてる訳で、つぶれてしまうリスクも持っているから忠誠心など求められないし、そもそも必要ない
-
やることをやっていれば OK だし、だから勤務形態や態度の自由度が高い
- 昼くらいに出社しても問題なし、服装もジーパンOK(むしろそっちのほうが多い)、おもちゃを持ち込むこともOK
いろいろ書いたあとのまとめ
いろいろ書いてみたが、違いについては
- 資本
- 環境
- 考え方
のいろんな方面での差があって、シリコンバレーでは exit するための環境がシステマチックに整っていて、それが行われるためのシンプルな考え方で統一されている。だから会社を作ったけど何をしていいか分からない。ということはなくて、このシステムに乗っかってベンチャーとして資本を得たら exit 目指して走るだけになる。
根本的な差としては、日本の経済が弱ってしまって、上場による成功や IT ベンチャーに対する投資が成り立たなくなってしまったことがあると思う。結局、大きな環境面でシリコンバレーのような exit を目指すゲームはすでに成り立たなくなってしまっていて、シリコンバレーのようになろうというのは個人のレベルではもう難しくなってしまっているのは明らかかと思う。
じゃあどうすればいいかと思った訳だけど、やはり日本では資本の額が二桁くらい違うので二桁くらい下の規模で同じようなやり方を何とかがんばって小さな規模で作ってみることがせいぜいなものかと思う。
そうなると上場は exit としてはもう成り立たないので、事業売却のような小さな規模での利益を重ねていく考え方で、自分の会社の中としてはエンジニア中心の自由な風土を保つ。そう考えるとはてなとかカヤックが持っているスタンスがはまってきて、やはり 日本でいうところのベンチャー はそこら辺なのかなと思う。
ひとつ伝えたいことは、何を持って成功か ということであって、ライフカンパニーをするにしても、日本でいうところのベンチャーにいくにしても、シリコンバレーでベンチャーを立ち上げるにしても、日本だからダメという訳では全然なくて成功のレベルを個人としてどこに定めるかの違いだと思う。
自家用ジェット機が買えるような成功を目指すならシリコンバレーだし、自分力を最大限試してそこから得られる利益が本物の自分の価値だと思うならライフカンパニーを立ち上げればいいと思う(実は自分はこの考え方でShakeSoulを作った)。
今まではライフカンパニー(ShakeSoul)を作ってしっかり立つことを目指してきた訳だけど、シリコンバレーの成功を目指す強烈なゲームを目の当たりにして、やっぱりそのゲームに一度は乗ってみるべきだよね。と思ってしまっている今日この頃だったりしている。
# これはこれで困った話なので、戦略的な今後の計画に続けたいと思う