Instagram 買収にみる売る側の戦略戦術を考えてみる


Facebook による Instagram 買収はスタートアップ業界にとって驚愕だったし、シリコンバレーはこれだけ大きな買収額の案件が出る特別な場所だと改めて思うところだった。確かに3000万ユーザの価値は高いが、売上がない状態で $1B(800億円)の売却額は素直に納得するには大きすぎる金額だなと思っていた。何かからくりというか、戦略戦術があるはずだと思ってちょっと調べてみた。

Instagram の CrunchBase を見てみると色々見えてきた。あくまで想像ではあるが考察してみる。

買収確定直前の資金調達

Facebookによる買収の記事は4/9に出ている*1。実はその数日前の4/5にシリーズBの資金調達記事が出ている*2。実際シリーズBが行使された日付は分からないが、記事になる数カ月前ということはないだろう。シリーズBの調達金額は$50Mで、バリエーション$500Mということが明らかになっている。記事公開の日付をそのまま鵜呑みにすると数日間でバリエーションが倍になっていることになる。

その14ヶ月前に行ったシリーズAのバリエーションは憶測だけど$20Mと言われていて*3、それを考えるとシリーズBのバリエーション$500Mは上がり過ぎだろうと思える。

Facebookのマーク・ザッカーバーグが3日間で交渉を成立させたという情報がある*4。ただ、18ヶ月前にFacebookとGoogleがアプローチしていたという情報もある*5。おそらく、3日間で行ったのは最終的な決断の部分であって、最初のゆるい段階でのコンタクトは18ヶ月前に始まっていたことを考えると、具体的売却条件の提示はすでに行われていたと考えるほうが普通だろう。

考察

シリーズBの調達がなければ$1Bという金額にはならなかったはず。むしろ、売却金額を大幅に上げるためのシリーズBを行ったといえる。シリーズBが行われたことによって、売却金額のスタートはシリーズAのバリエーション$20Mから$500Mに跳ね上がって、Facebook はそれ以上の提示をする必要があったことになる。

つまり、VCは Facebook との売却交渉を知っていて、売却益を自分たちも得るためにシリーズBを仕掛けた。特にシリーズBで初めてInstagram に投資した Sequoia Capital にとっては仕掛ける価値のある大きなチャンスだったに違いない。

Facebook上場前のタイミングでの売却

Instagram の CrunchBase を見るに、売却金額$1Bの内訳は株式とキャッシュになっている。株式は上場前のFacebook株だ。Facebook はまだ上場していないので、$1B分のキャッシュは用意しないだろうし、株を混ぜるのは普通の発想。実際、上場申請より純利益は$1Bなので、1年分の純利益が吹っ飛んでしまう*6

どの程度の株式交換比率がわからないが、確実に言えることは、Facebook株は上場後に必ず金額が跳ね上がるだろうから売れば利益が出る。と言うことは、キャッシュよりもむしろFacebook株の方が、Instagram側にとってはゲインが確実視出来るので良い。

考察

この戦術は Instagram 創業者が持っていたというより、VC が提示して Instagram 創業者の同意者と実行され、狙い通りに実行できたと考えたほうが普通だろう。

Facebook上場前にFacebook株をどうやって手に入れるか、というのはコックでもいいから雇ってほしいと思う個人から VC からみんな同じだろう。この観点からいけば Instagram 売却はVCにとっては上場前のFacebook株を得るベストな方法だった。

Facebook側も上場前の株が上がることを考慮した株式交換比率を提示できるだろうから、純粋に$1B出すことにはならずに提示しやすかっただろう。もし、株式上場後だったらこの金額を提示するのは難しいだろう。実際、争っていた Google にはこの金額はキツかったのではないか。

まとめ

こうやって見てみると、VCの戦略性の高さ、戦術のしたたかさを感じざるを得ない。

彼らは実にシンプルに、

  • 売却金額をどれだけ大きくするか
  • Facebook株を得てさらに上場後のゲインを出す

これにフォーカスして、実際ものにした。

ここまでの戦術を日本で打てるVCはいるのだろうか、いないだろうなぁ。戦術がダイナミックすぎるのと絶妙なタイミング(上場前という時間制約がありつつ、有利な条件を引き出したいというバランス)で結果を出す。これを実践する高いスキルが必要なことも想像できる。

シリコンバレーの力というのは、創業者の優秀さは確かにあるけど、それにも増して投資側であるVCの強烈な力がエコシステムを作ってくれるのだと思う。

実際、Facebook上場という一つのビックウエーブに対して、狙いを定めちゃんと乗ることが出来きたのだから、うーんさすがシリコンバレーパワーや、と思ったのでした。

売却直前の資金調達のようなテクニックがグレーゾーンであるのか、あまり売却金額をどう大きくしたのか、のような観点で解説した記事がなかったもので書いてみたのもある。多分まだそういう段階に日本は来ていないので、お金の戦略性のような話題はあまり飛び交わないが、それくらい考えてやっている人達がいることを起業家、VCは知っておいていいと思う。