ペップのビルドアップ UEFA Champions League Final


新宿

ペップが2016年に ManCity の監督になってから6シーズンが経過した。

ついに最後の砦であった UEFA Champions League で優勝した。 しかも、Premier League 優勝, FA Cup 獲得しての3冠達成だった。

ペップのフットボールの特徴として、個人的に最も重要視しているのが、ビルドアップ

今シーズンのビルドアップは、今までのシーズンを踏襲しつつ改善し、より安定性が高まった印象。 完成形に近いのではないか。

ペップのビルドアップの原則

6年見続けたペップのビルドアップは、いくつかの原則によって設計・運用されている。

5人で攻めて5人で守る

ビルドアップと攻撃で明確に役割を分けている。

ビルドアップは最終ラインとボランチの計5名で行う。 残りの5名は攻撃に専念する。基本的にビルドアップに加わることはない。

他のチームで見られるように、トップ下の選手が中盤より低い位置まで下がってボールを受けて前線につなぐようなことはしない。

ビルドアップは、5名でボールを繋ぎながら全員で前進して、相手を敵陣に押し込む。 そこからフリーの状態の攻撃の5名に良い状態でボールを渡す。 あとは攻撃の5名に任せる。

最終ライン3名、次のライン2名の2ラインで組み立てる

今までは、いわゆる偽SBを使っての 3-2 の構成でビルドアップする。

左右どちらかの SB をピボーテと同じ高さで、中央に位置して、3-2 の構成を作っていた。 この際、残った SB はサイド近くに位置するので、逆サイドに大きなスペースが生まれる歪な構成となっていた。

今シーズンは最終ラインを完全な3バックとして、3人を横幅に対して均等に配置した。 その3人の前に次のラインの2名がボランチとしてポジションする。

きれいな 3-2 のポジションとなり、歪さがなくなり、これが安定感が増した。

実際、GK がビルドアップ時にボールを触ることがほとんどなくなった。

三角形を複数作る

3-2 の形がきれいに配置されると、均等な複数の三角形が形成できる。

三角形はパスコースが常に2つある状態なので、選択肢が担保され安定感が生まれる。

4-1 では三角形が歪になり、ピボーテが狙われやすく、リスクの高い状態になる。 なので、3-2 の構成を作るために偽SBという発想が生まれている。

今シーズンは更に発展させて、SBをCBにして 「4人のCB + ピボーテ」 で 3-2 を作るようにした。

今シーズンの理想の立ち位置

前シーズンから変化はビルドアップの形が明確な3バックになった点。

3-2 のブロックでビルドアップする。 全体のポジションとしては、3-2-2-3 という感じ。

ビルドアップ時

   Rodrigo  Stones

 Ake   Dias   Akanji

今シーズンのトップトピックとしては、「Stones のボランチ化」だろう。

今まで Rodrigo の隣には偽SBして、SBの選手を起用していたが、今シーズンの途中からCBの Stones をこのポジションへ起用した。

今まで CB としては見えなかった Stones のボールの受け方、動かし方、判断がとてもクレバーで、格段にビルドアップの質が向上した。

守りの時

守備の時は、4-4-2 になる。

攻撃の時の 3 バックが変形して4バックを形成する。

きれいな3ラインのブロックをしっかり構成することを重視している。

シーズン序盤

   Gundogan  Rodrigo

Ake  Dias  Akanji  Stones

攻撃時にボランチの位置にいた Stones が右SBの位置に入る。

終盤

   Gundogan  Rodrigo

Ake  Dias  Stones Akanji

終盤は、Stones がまっすぐ下がって最終ラインの右CBに入る。

Akanji は攻守にわたり右サイドをケアすることが引き続きできるし、Stones の横移動がなくなったことで、よりスムーズな守備構成への移動ができるようになった。

Ake がいない時の立ち位置

Ake が怪我をして離脱しているときは Waker が入った。

   Rodrigo  Stones

 Akanji  Dias  Waker

Akanji が右も左もできるのが大きかった。

Laporte は左ができるが、Ake の代わりに入ることはなく、Akanji を左に回すことで対応した。 SB的な役割も求められるこのポジションの序列としては、 Akanji の方が Laporte より上となっていた。

UCL ファイナル前半の立ち位置

Ake が復帰できたことで、今までの Waker に代えて Ake を先発で使った。

最終ラインは理想形と同じメンバーできた。

 Ake  Dias  Akanji

最終ラインは理想形だが、次のラインがいつもと違った

DeBruyne    Stones
      Rodrigo

 Ake  Dias  Akanji

Stones の立ち位置が Rodrigo と同じ高さではなく、もう一段前になっていた。 いつもの「5人で行う」のではなくこの時は DeBruyne を左サイドにまわして 「6人」になっていた。 代わりに、いつもは左サイドのハーフスペースの前線近くに位置する Gundogan が右サイドに位置していた。

原則を崩して対策をしていた。

いつもなら DeBruyne は右サイドに入って、「攻め」のメンバーとしてハーフスペースを攻略する。ビルドアップには関わらない。

分析の結果やインテルのプレッシングへの対策からか、いつものビルドアップではない形だった。

左に張った DeBruyne は Ake から受けたボールを前線の Haaland めがけて長めのクロスを上げるようなことを何度か試みていた。

狙いとしては、なるべく DeBruyne をフリーにして、精度の高いキックを活かしたかったかもしれない。 決められた狙い、戦術だったと思うが、原則を崩してしまったこととインテルの早いプレッシングに苦しみ、効果的なビルドアップは実現できていなかった。

ビルドアップからいつものように敵陣に押し込めたシーンはほとんどなかった。

UCL ファイナル後半の立ち位置

後半は前半のビルドアップの改善を行うために、メンバー交代はなかったが立ち位置をいつもの構成に戻した。

   Rodrigo  Stones

 Ake  Dias  Akanji

Stones が Rodrigo と同じ高さでより内側に位置するようになり、 DeBruyne はいつもの右サイドの攻撃側に入るようになった。

ボール回しも1タッチ、2タッチで積極的にパスを回すようになった。プレスがかかっていても後ろ向きに受けて、奪われないようにしながら、ボールを繋ぐようにした。

立ち位置のバランスが良くなったことや、インテルの守備のプレスが疲れから弱まったこともあり、よりボールがつながるようになった。

DeBruyne はいつものポジションでやりやすい感じで、右サイドで効果的な崩しが展開できるようになった。

ゴールシーンも、敵陣に押し込んだ状態で、数分間ポゼッションし、右サイドからの崩しの結果こぼれ球に Rodrigo が反応した見事なミドルシュートだった。

あの時間帯はいつもの ManCity の攻撃が再現できた時間帯だった。

今後も 3バック は踏襲するだろう

完璧な結果のシーズンだったが、おそらくペップにとって ManCity での最後のシーズンとなる 23/24 はどうなるか。

今シーズンの完全な3バックは安定感の効果が抜群なので、このまま踏襲するだろう。

Stones が引き続き使えるなら Rodrigo, Stones の組み合わせでビルドアップ時のボランチを形成するだろう。

Rodrigo, Stones のどちらかが怪我などで使えない時の代替えをどうするかが課題になりそう。 Phillips がSBもできれば、そろそろ実働させたい意図からも、代わりにでることも有り得そう。

常に改善点を見つけて的確に修正する

振り返ると、ペップは今あるものに満足することなく、常に改善点を見つけて的確に修正してきた歴史だったと思う。

偽SBでピボーテの負担を下げ、今回完全な3バック、CBのボランチ化でさらに修正してきた。

この修正が、シーズン最初だけでなく、シーズン中も行われるのが、見る側としてはとても楽しい。 Stones のボランチ起用はシーズン序盤にはない代表的な策だった。

いずれにせよ、今シーズンの課題をどこに見出して、どうバージョンアップさせる。それを見つけるのが楽しみだ。

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