トヨタ生産方式 – 大野耐一



トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして

執筆者はトヨタ副社長をされて大野耐一氏。言わずと知れた「カンバン方式」の生みの親である。
この本は1978年に書かれていて、2007年間刊行時点で102刷!これだけ増刷されている本もなかなか無いでしょう。
# ふと思ったけど、増刷の数でよく売れているかがわかるから、増刷ランキングを作ったら本を購入する際の実質的な良いデータになる気がする。

リーンスタートアップの本の構成要素でもあるカンバンの参考資料として、この本が紹介されていたので読んでみた。

時代背景が1950-70年代なので、戦後からの復興、オイルショックなどその当時の様子を思い浮かべつつ読む必要はあるが、トヨタ生産方式が生まれるまでの思考過程や何を目指してこの生産方式を生み出したのか、その根本的な重要視している考え方は普遍的なので、非常に勉強になる。

トヨタ生産方式に関連する本は国内外の学者やジャーナリストなどが書いたものがあり、自分もザ・トヨタウェイなども読んだが、この本が最も本質的でわかりやすく簡潔に述べられている。
ビジネスの世界では、「カンバン」「1個流し」「カイゼン」などトヨタ生産方式で用いられる単語が説明されているが、それらが生まれた環境、意図、目的が繋がって分かりやすく解説できているものは少ない。逆に学術的にわかりにくく書いてある物が多い。
あくまで「カンバン」はツールであって、それを生み出す思想が理解できないと、本質には行き着かない。そういう点では、この本こそが大野氏の思想に触れることのできるもの、トヨタ生産方式を学ぶには必須の本といえる。

この本によってはじめてトヨタ生産方式の目的を知ることができた。トヨタ生産方式の根本的な考え方は「低成長時代にあわせ多種少量生産を安く実現する方法を開発できるか」を長年追求した結果ということだった。
面白いのは昭和34年からの高度経済成長期以前の昭和25年から一貫して、いずれ高成長は途切れアメリカ式の大量生産方式では危険であることを認識していたことだった。

ちょうど今、失われた20年をへてアベノミクで成長を作り出そうとしている時期だが、少しでも(雰囲気だけでも)景気が良くなると一気に色々なものが動き出すことを実感する。不動産投資、億ション完売、オンライン株取引が盛んになって投資セミナーが満員という現象は景気が良くない時は姿を消していて、よくなりそうだと出てくる。そういう意味では景気が上向きの時にのみ通用するビジネス。
また、高度経済成長期の古い成功体験に依存し、低成長時にどうやって儲けるか考えられずにアクションできずに低迷する大企業の衰退ぶりが表面化してきている。

景気が良い時は売れるが景気が悪い時にどうするか、という問はまさに現代にもそのまま適用できる。
その時トヨタは、大野さんたちは何を考え実際どうしたのか、それがこの本から読み取れる。

生産の現場を見て、実際発想し、長い時間をかけてカイゼンを繰り返し結果に現れる。すべてが現場の上での工夫や考え方なので、一貫性があり分かりやすい。学術的や概念的な部分から進めてしまいそうになることがほんとうに多いのだが、やはりすべての根本は現場の生きている様子、サービスであればそれを使うユーザや作り出す作業そのものにこそヒントがあることを教えてくれる。

実績のある先人から学ぶことはまだまだあるなぁ、ということを認識させてくれた良書。