Eric Sink on the Business of Software 革新的ソフトウェア企業の作り方


まずはじめに言ってしまうと、この本は 初めて起業しようと思っている人は必ず読んでおいたほうがいい。推薦書だ。

Eric Sink on the Business of Software 革新的ソフトウェア企業の作り方

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邦題は「革新的ソフトウェア企業の作り方」だが原題は「Eric Sink on the Business of Software」となっていて関連がない。原文は筆者のWebサイトで見れるようだ。筆者はエンジニアで、いくつかの起業を行い小さなソフトウエア会社 ISV(Independent Software Vendor) として成功してきている。

本の発行は2008年だが実際書かれたのはMSDNのコラム連載として2003年から2005年にかけてで、今からみるとかなりの年月が経ってしまっているが、書かれている内容が色あせている印象はない。あと筆者の会社ではWindows上で用いられる開発ツールを開発、販売をしており、スタートアップの印象としてよくあるインターネットサービスのモデルとは異なるが、この点も書かれている内容に影響しているとは思わなかった。それほど本質的、普遍的な書き方と内容になっていると思う。

日本では起業の本というと、実践的ノウハウの乏しいタイトルだけで釣るまがい物が多々ある中で、この本は本物で、ノウハウや示唆に富んだ貴重な1冊だと言っていい。内容は起業すること自体への考え方、人、マーケティング、セールスに分かれており、起業し会社を動かしていく際に重要な側面を網羅していると思う。今スタートアップをしてみているが、始める前に読んでいればいろんな面で遠回りが減っていただろうなぁと想像して少し悔やんだほど。

起業の全ては可能性なので、どんなやり方も可能性は0ではないが、失敗するリスクを最小限にするためにどうすればいいか。という観点で、筆者の成功も失敗も含めて経験してきたてきたノウハウが書かれている。筆者もきれいな結論を述べるのではなく、考える上でポイントになるようなこと、それが絶対ではないことは度々説明している。

共感したポイントの抜粋は以下。

  • 単なるアイデアには価格はないのだ。ビジネスの世界では、アイデアに値打ちはない。本当の価値はうまく実施することでもたらされる。
  • 収支計画の作り方
    1. 収支計画を立てたとき、バージョン1.0を作るのにどれくらいかかると仮定したか?その値が何であれ、それを2倍にすること。そして収支計画をそれに応じて修正する。最初のリリースを作るまでには、あなたが考えているよりずっと長くかかるだろう。
    2. 収支の予測値をすべて半分にすること。
    3. 支出の予測値をすべて2倍にすること。
  • 小さなISVに必要なのはプログラマではなく開発者
  • 絶えず学び続けることに真剣な人を雇うということだ。そういう人は自分がどれほど知識があるか見せようとして時間を無駄にしたりはしない。
  • ブレーンストーミングにおいてもっとも重要なルールは、やっている最中にはアイデアの評価をしないということだ。出てきたアイデアはどんなにバカらしく見えても書きだすようにしよう。
  • 製品の問題を隠そうとする企業は、その問題を修正しないということだ。
  • 主たる差別化要因が価格だというなら、考え直したほうがいい。差別化要因というのは極めて重要なものであり、低価格を主要な差別化要因とするなら、よく踏みならされた失敗への道を歩むことになる。
  • オープンに開発することで、そのことを開発の非常に早い時期に知ることができたということだ。あなたには機能セットを修正する時間がある。あるいはプロジェクトを中止して、損出を抑えるという決定をするかもしれない。どちらの場合にしても、アプリケーションの完成まで待たずに、早い時期に悪い知らせを得られたことで、状況は良くなるのだ。

今まで自分になかった新たな気づきのポイントの抜粋は以下。

  • ニッチにあるチャンスこそ、今日のソフトウェア製品が生き延びる道だ。私が言っているのは、大きな会社が追いかけるには単に小さすぎるマーケットセグメントのことだ。
  • 樽の中にはめ込める石を注意深く選ぶ方法を知る必要がある。大きさが重要だ。小さな石に目を向けるなら、クールなチャンスはたくさんある。
  • 多くの会社は競合の優秀さや強さによってではなく、自らの愚かなミスによって潰れていく。手堅くありつづけ、ビジネスを継続することだ。そうやって何年か経たとき、いかに多くの競合が現れては消えて言ったかに驚くだろう。
  • 成功するための方法は、小さな集団を見つけ、その人々が製品を好きになるようにするということだ。大きなマーケットに取り組むのは、小さなマーケットを手に入れた後にすること。走る前に歩けるようになる必要がある。
  • あなたの付ける価格はそのメッセージと整合している必要がある。あなたが199ドルのような値段をつけたなら、誰もそのメッセージを信じないだろう。安い値段をつけるのは混乱したメッセージを送ることになるのだ。

初めてのことだと概要の理解どまりで、そこから先の実践的な事柄が欠落しがちになる。スタートアップのニュースはとても華々しく映るし、自分もその流れに乗っているかのごとく錯覚しがちだが、大事なのは手堅く製品を作り、それを表す明確な文章を考え、すぐに潰れないための収支計画を作るなどの地味なことの積み重ねが失敗するリスクを減らしてくれる。そのことをこの本が教えてくれる。

最初の起業は失敗するリスクはとても多いはずで、ほとんどが消えてなくなってしまっているだろう。facebookのような例は本当にまれだ(まれだからこそ注目されているのだけど)。失敗したことを踏まえて2回目、3回目とチャレンジして成功の規模を大きくしていくような、戦略的な堅実さと謙虚さが大事だということを筆者は身を持って伝えている。

スタートアップという華やかなチャンジに身を染めてみたい、と考えている方はその覚悟の度合を測る意味でも、この本を一度読まれることをお薦めする。

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